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    「おや、いつのまにそこに来てなさつたかね。お茶ですか、上げますとも」

    「いつこちらへお帰りでしたか」

    練吉は一人で感心し、それでも足りないと見えて、房一に呼びかけた。

    と、盛子は大げさに滑稽な顔をしてみせた。

    「こんなところで初対面のご挨拶をしようとは思ひがけなかつたですね。――いや、初対面といふわけでもないんですな」

    「わたし、あれらしいのよ」

    このポインタアの雑種は、房一の往診にはどこへでもついて来た。いゝ路づれだつた。

    「へえ、――どうもごていねいなことで――」

    「何分ごらんの通りの未熟者でして――」

    「どうも遅くなりまして――」

    「ほう、この家鴨あひるの嘴みたやうな金具は、こりや何かな。ほう、こりやよく光る小刀だな。こんなに何本も何に使ふのかな」

    私は時間を忘れているが、ひょッとすると、一二分、又、一二分というように、ねむっているのかも知れない。頭のシンが疲れている時には、頭をシャボンの泡だらけにして、湯につかりながら、後頭部からコメカミへかけて十分も十五分も静かにもむこともある。両耳を抑えて、湯の中へ頭をもぐしこんでシャボンを落して、又、湯の温度に同化してしまう。

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